【LOST SONG】君は新時代の存在論を見たか?【感想】

ご無沙汰しております。管理人のとりぐらふです。
Twitterでは相変わらず、実況漬けの日々を満喫しております。


さて、皆さんは2018年のアニメライフをいかがお過ごしでしょうか?
まだ半年ばかりながら、個人的には冬・春共に史上類を見ない空前絶後の大豊作であると思う。連日連夜のように質の高い作品が輩出されて、息をつく暇もない。そんな嬉しい悲鳴を上げる毎日です。


中でも、昨今のオリジナルアニメーションの作品群のクオリティには目を見張るものがあります。


圧倒的完成度を誇る青春群像劇『宇宙よりも遠い場所』
剣戟とドラマを高次元で練り上げた『刀使ノ巫女』
現実の競走馬をリスペクトしつつ、創作として一歩先へ昇華させた『ウマ娘 プリティダービー』



勿論これらはほんの一例に過ぎないですが、原作の摩耗を指摘される今のアニメ業界において、これら傑作の盛り上がりは、明るい未来を予感させる素晴らしいものですね。



そして今回紹介したい作品も、そんなオリジナルアニメの一つ。
上記に挙げた作品たちとは性質も方向性も、存在の在り方さえも異なる、異質で超法規的な奇作であるこの作品。



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名を、『LOST SONG』と言う。





1.LOST SONGってどんなアニメ?

私が前回の記事で取り上げた『霊剣山』ほどではないにせよ、おそらくこの『LOST SONG』という作品を見ていたという人は、Netflix加入者か余程の鈴木このみファン以外には、一部のアニメジャンキーくらいしか居ないのではないだろうか。

少なくとも、街中で話題に上げている人を見たことはないし、SNS等でトレンドに上がっているところもほとんど見たことがない。


そんな、かなりのマイナー拠りであるこのアニメですが、蓋を開けてみれば化け物じみた叙述トリックと、現実の境界すら破壊しかねない禁忌の作品だったのである。



知らない方のために、あらすじをネタバレしない範囲でざっくりと書き起こすと

人々を癒す「癒しの歌」を歌う少女リンと、同じく歌で様々な力を操る少女フィーニス。
歌の力を求める王都の陰謀と、世界を破滅させる禁断の歌「終滅の歌」に巻き込まれる二人の悲運を描いたスペクタクル群像劇。


となるだろうか。


はっきり申し上げて、歌×ファンタジーなどという設定は散々使い古されており、目新しさを感じる要素は皆無。況してやアニメの数も激増し、他の娯楽にも事欠かない現代に提供するには、あまりに求心力をそそられないテーマと言える。


加えて、本作の1話で「リンの住んでいる村が焼き討ちにあう」という初代プレステ時代に絶滅したRPGのような展開をやってくるのだから、その時点で見限られても何らおかしくない。というか現に私がそうであった。


(あ、このアニメ面白くならないな……)


1話終了時点での私の心内評価は、まさにこのような状態であり、周りでも専ら
「面白くないシンフォギア」「鈴木このみの宣伝」「ゆかりんに歌わせたいだけ」「今流れているこの曲を含む」などと散々な評価を受けることになったのも、致し方ない結果だったのかもしれれない。



しかし、そんな没個性的な印象だった今作の状況は、3話4話と回を重ねていくごとに、徐々に怖ろしい変貌を遂げていくことになる。







2.序盤の転換点



本筋に入る前に、まずは本作の主人公であるリンと、その仲間たちについて簡単に紹介していきたい。



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リン

本作の主人公。あらすじにも書いた通り、歌で不思議な力を操るのだが、歌いだし0秒で同時に発生する詠唱破棄暴風を、敵兵に躊躇なくぶっぱなすやべー奴。発想や発言のタイミングも全体的になんかおかしい。ちなみに声優を担当するのは、アニソン歌手でお馴染みの鈴木このみさん。氏がOPを歌うアニメ『アンジュ・ヴィエルジュ』は秀作だからみんな見て。





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アル

作中最強の物理キャラ。両手に持った爆弾を薄ら笑いで投げつける生粋の爆弾魔で、終盤には空飛んで空襲を始めるやべー奴。敵は大体リンの歌と彼の爆弾でなんとかなる。戦闘・発明・物語回しとあらゆる事をこなせる万能マン。





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ポニー

色々あってリンと旅することになったおばさん。パーティ内で姉御枠っぽい雰囲気を出してるけど、特に活躍はしないやべー奴。
……と思ってたら最終回で衝撃の真実が明かされた。





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アリュー

やべー奴。通称膝パンマン。
彼女のヤバさは、このgifを見てもらえればわかると思う。
ただ、これでいて実はパーティ内では一番の常識人。




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モニカ

膝パンマンの妹。どこでも突然寝るという設定があり、本当にどこでも寝る。時に物語に関係する重大な会話をしてても、それをぶった切って寝るというやべー奴。
しかも寝たまま兵器を操作したりする。
ちなみに彼女の突然眠る設定には脚本上特に意味はない。







と、主人公一行の説明を一通り終えたところで、大体の読者は察しがついたことと思いますが……
そう、このアニメ。とにかくいろんな部分がトンチキなのである。


勿論トンチキなのはキャラだけではない。


例えば第3話。もうひとりの主人公フィーニスのお付きのメイドに変装した軍兵が襲いかかってくるシーンがあるのだが……



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「ヒゲ!どう見ても男です!」
と、何とか変装に気付き、急襲を阻止することに成功する。




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……ちなみにメイドのコルテはこの人。




どういう作品か、よくわかって頂けたのではないかと思う。



そのほかにも、馬車が空を飛んだり、吐血の勢いが音速だったり、王子が生え際だったり、謎インタビューだったりと、枚挙にいとまがない。



この時点で、本作の評価は「無味乾燥な駄作」から一転、「ぶっとんだB級アニメ」「クソアニメ(誉め言葉の意)」と言った前向きな評価に変遷していく。
特に私の場合はアニメ実況民ということもあり、そういう方面での面白さも開拓し、すっかり今作の愉快で痛快なトンチキ具合に身を委ね揺蕩っていた。



そう、あの運命の回がくるまでは。






3.「終滅の歌」


来る放送第8週目。何やら公式のツイッターアカウントでは、前週から謎の応募企画を実施しており、暗に「ここが作品の転換点ですよアピール」を行っていた。


そしてここで放送された第8話が、まさにこの作品の評価を根底から覆すことになるとは、当時まだ誰も知る由がなかった。



~ここから先重要なネタバレを含むので、未見の方はブラウザバック推奨~
そんな人いないとおもうけど











このエピソードで描かれた真実、それは
同一だと思われていたリンとフィーニスの世界が、実は全く別の時間の独立した物語だった というもの。


この7話かけて大胆かつ丁寧に描かれた叙述トリックは実に見事であり、今作をただのB級アニメと侮っていた視聴者が軒並み手の平を返す大事件となった。(勿論かくいう私もその一人)


しかしこの叙述トリック、一度でも視聴者に勘付かれてしまっては成立しない。
一部共通する点はあるものの、二つの世界は文明も科学技術も全く異なるもの。
いかに鈍感な私とは言え、普通であればどこかで勘付いてもおかしくないはずである。



だが、このトリックを成立させていたのは紛れもない、本作の持つトンチキさだったのだ。



具体的な例を挙げよう。



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二つの時代に共通する人物(厳密には別人ではあるが)として、レオポルドという騎士がいる。
第5話。通称空飛ぶ馬回と言われるこの回で、レオポルドはリン達が投獄された関所に居た。



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だが次の第6話で、いきなりフィーニスのところに瞬間移動をしている。


普通なら明らかに違和感のあるシーンであり、トリックに気付き得る描写の一つとなっている。


だが、今作の場合は事情が違う。
何故なら、今作がとてもトンチキなアニメだからである。
視聴者としては、この明らかな瞬間移動さえも「これまで描かれたトンチキ描写のうちの一つ」として脳が自動処理を行ってしまう。


そしてそれこそが、制作サイドの思惑。


つまり今作で描写されたあらゆるトンチキは、全て本当のカラクリをカモフラージュする為の、徹底した工作活動だったのである!



かつて同じような技を魅せた、『聖戦ケルベロス』という作品が存在した。
ただの笑えるだけと思われたシーンが、最終盤ですべて伏線として機能していたことが明かされ、大変な衝撃を受けたことは今でも私にとって語り種となっている。


あちらの作品も大変な快作であるが、本作はまた少し意趣を別とする。
何故なら、あちらが最終盤での出来事であったのに対し、こちらはまだ8話。まだ中盤の段階だ。
これが何を意味するのか。答えは簡単である。


8話以後、視聴者は必然的にこれまでの脳死的な感受から一変、「どれが伏線か」に傾注して視聴を始めることになる。
だが、そんな努力をしても何ら効力はない。
何故なら、本作は8話以降も何ら変わらず進行する。
そのトンチキさも同様に変わらないのだ。


こうなると、最早どれが「ただ単にトンチキなだけのシーン」で、どれが「トンチキに見せかけた伏線」であるのか、判別することは不可能なのだ。
名付けて、トンチキミラージュと言ったところか。



B級アニメでありながら、A級のトリックを魅せる。
計算高いアニメでありながら、ただのトンチキな作品である。


清と濁。優と劣。表と裏。それらが見事に混在する。
さながら二つの時代、二人の人物を描いた物語を、本作自身が体現するかの如くである。





だが、果たしてこれがこの作品の本懐か?いいや、違う。
そう、こんなものはただの通過点でしかない。
悪く言えば、今はまだ「途中のトリックが素晴らしかっただけの変なアニメ」でしかないのだ。



この作品の真なる到達点は、もう一つ「先」にある。








4.「仮想」と「現実」のLOST


そんな紆余曲折があり、様々な蠱惑的なオーラを放ちながら、もう6月下旬。最終回シーズンを迎えた。
例に洩れず本作も、全12話というメジャーな話数で無事最終回と相成った。
ここまで散々翻弄されたアニメだ。こういう作品は、最後まで油断ならない……そんな期待と不安を孕みながらも、しかし展開だけ見れば残すのは消化試合。リンとフィーニスの二人によるユニゾンの後、リンが消えるかどうかを見届けるのみ。どんな超展開が来ても、受け止めようではないかという気概で、いよいよ最終話のオンエアーが始まった。


そこで待っていたのは、私の脳内キャパシティなど軽く握り潰す程の壮絶なテーマであった。



※注 ここからの話は、6月23日25時30分放送のTOKYO MX版を基準にしています。
各放送局、配信媒体によっては著しく内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。







この放送で行われたのは、CMが無いという方法である。
正確には本来CMの入るAパート~Bパート間には、作品の回想シーンをまとめた映像が、
本編終了後には、専用の映像からの来年2月に開催されるイベント告知が、
それぞれシームレスでつながっているのである。



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……あまりにも本編とつながりすぎているせいで、果たしてどこまでが「本編」でどこからが「CM」なのか自身がないのだが、わざわざ「1年後」というテロップから接続しているあたり、このCMは本編に組み込まれることを前提としていると見る方が自然だろう。





これが意味するところはなにか。
LOST SONG最終回本編25分、その全てがイベント告知の為のCMでしかなかったということ。
CMを含むすべてが本編であり、本編を含む全てがCM。
本編とCMの主体が曖昧化している……言い換えるならば、つまりこの回はもはや「本編という実体が存在しない」のだ。




そもそも、アニメ(創作)とCMとの違いはなんだろうか?
まるで別物ではあるが、一番の違いは「対象の違い」だろう。
アニメ、ひいては創作とは、現実とは異なる別世界を創生することと同義だ。
とりわけ、声以外のすべてが二次元空間で表されるアニメは、特にその傾向が強い。
あくまで創作とは、基本的に創作内の人物達にこそ向けられる行為である。


一方、CMとはあくまで現実世界での目的達成こそが第一義だ。
実際の金銭を動かすために行われる商業であり、その目は当然、現実に息づく我々視聴者に向いている。


架空と現実。決して相容れることのない境界。
LOST SONGは、その境界という禁忌に手を触れたのだ。


……などと少し大袈裟に書いてしまったが、実はこの二つの境界に触れるコト自体は、さほど難しいことではない。
現実→架空世界へのコンバートは、商品展開の拡張や二次創作という手段があるし、
架空→現実世界へのコンバートは、メタ要素を用いることで成立させられる。


よくアニメで「まぁこの作品◯◯だしね~」といったようなメタ発言を見かけるが、これがまさに架空→現実世界への変換装置であると言える。このような発言は必然、ギャグや各種スピンオフといった砕けた作品でこそ真価を発揮する。


しかし、いかにLOST SONGがトンチキと言えど、その根幹は重厚なファンタジーだ。そのようなメタ描写は当然無い。


そう、LOST SONGは本来、現実世界との境界を侵犯など決して出来ない。
本来起こり得るはずのない事象、それを埒外な方法で成立させてしまったのである。






以上を踏まえて、今作の最終回が一体何をしでかしたのかを考えたい。
「本編とCMの境界線の撤廃」……それは即ち「架空と現実の混在」である。


今一度最終回の結末に目を光らせたい。
終滅の歌と癒やしの歌によるデュエットにより、地球に隕石が落下した直後に地球の全修復が行われることになる。
終わりから始まりへ――リンを犠牲に、平穏を取り戻した後の世界が描かれる。


そこには、現在(リンの時代)には居ないはずのコルテが居る。
フィーニスの時代とリンの時代の要素が、奇妙な形で融合し混在することとなったのである。。



……おわかりいただけただろうか?
「フィーニスの時代とリンの時代の”混在”」
「架空と現実の”混在”」


そう、シームレスCMとはただの宣伝の為の導入などではない。
作中脚本と現実世界を股に掛けたれっきとした”演出”となのだ。



ここまで来るとようやく、今作の真の姿が見えてくる。
創作の域を越え、次元を越え、現実に居る我々に対し投げかけられる或る命題。
それは我々アニメを愛するものにとって、誰もが思考し懊悩した経験のあるものだ。


即ち、「”フィクション”とはなにか?」「”リアル”とはなにか?」という問い掛けである。



時に皆様は、"シミュレーション仮説"という言葉を聞いたことはあるだろうか?
詳細は各人調べてもらいたいのだが、要は「この現実が高度なVR(仮想現実)空間である」というものだ。
この世界は誰かが作ったシミュレーションであり、我々はその中に組み込まれた人工意識に過ぎない……という考え方だ。
「そんなはずはない、俺は俺の意思で動いている」
と答える諸氏もいるだろうが、果たしてその考えすらもシミュレートされたものではないと果たして言い切れるだろうか?


有名な仮説に"世界五分前仮説"というものもある。
文字通りこの世界がたった五分前に作られたのだという仮説である。
記憶や記録、思い出、経験なども含め全てが五分前に作られたのだから、記憶の存在を論拠に反駁することは出来ない。


このように、人は様々は長い間”存在”に関する疑問を論じてきた。
古くは数千年……紀元前から確認できるその学問の名は、哲学である。


尤も私はこの学問に対し明るくないため、あまり偉そうな事は言えないが、畢竟思考実験の中においては、我々の生きる世界はあまりに不確定な要素が多すぎるのである。



仮に上記のシミュレーション仮説が真実なのだとして、果たして我々の実在は、いかに証明し得るのだろうか?
もっと単純な話。周りの人間や生物は、本当に個として実在すると言えるだろうか?
自分がつい瞬刻前まで実在したと、そう確定出来るのだろうか?
そしてこの考えは、アニメというフィクション世界にも逆説的に取り込むことができる。


フィクション世界の住人に対し、果たして彼らは実在しないと言えるのだろうか?
少なくとも、彼らの世界の中において彼らは”実在”しているし、
もっと原義的に言うならば、創作としてこの世に創られた時点で、少なくとも”この世”に存在しているのだ。


ならば、どこからば「架空」で、どこからが「現実」なのか。
そんな答えの出ない命題を、我々は常に抱えているのだ。


『LOST SONG』が描き出したものはまさに、「現実」に対する疑問であり、「存在」そのものに対する叛逆だった。



シミュレーション仮説は、そんな数千年の長い哲学史の中ではかなり新しい説だ。
それも当然の話で、古代人の文明にはヴァーチャルなんて存在しないし、人間の思考力は、時代の文明、世論によって姿形を変えいくものだからだ。


歴史が生まれ、思考が宿り、定説となって結ばれる。
であれば、TVアニメという文化が登場して半世紀強。このアニメ史という歴史の中から哲学が結ばれたとしても、何らおかしな話ではない。
無論、哲学そのものを取り入れた作品は無数に存在する。
また、メタフィクションを取り扱った作品も決して少なくない。
だが、決してこれらの手段に拠ることなく、純然たるファンタジーという空間においてそれを成し遂げる。



『LOST SONG』の、そんな高次元且つ超常的な作品の在り方は、まさにアニメという一創作が作り出した「新時代の存在論」を体現したと言えるのではないだろうか?






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思えば、アニメという文化は平成に入り最盛期を迎えることとなった。
だが、今は娯楽を手軽に持ち運ぶ時代。そんな現代に、アニメという媒体そのものが古臭いものとなりつつあるのかもしれない。
加えて最近は、売上の低迷にスケジュールの崩壊、制作会社の倒産などあまり良くないニュースばかりが耳に届く。


2018年。平成最後の年。今後の業界はどこへ向かっていくのか。
衰退か、停滞か、はたまた再興か……。
そんな時期にあって、カンブリア爆発さながらの大豊作とともに、今作が確かな一つの「存在感」を我々に刻んだことだけは、紛れもない事実だろう。









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2月11日はパシフィコ横浜に行こう!!






















6/28追記

『シュタインズ・ゲート ゼロ』12話より


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どういうことなの……

LOST SONGは実体がないので、あらゆるアニメに偏在できる可能性が……?
LOST SONGERを名乗るには全てのアニメを見ろ。



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